誰かだれか叶えてくれたら嬉しいな。たまに本や食べ物、お仕事のことも書いたりします。

アイデアブログ

おもかげ 浅田次郎さん著書 定年の日倒れた男の一生とは何だったのか。

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定年を迎えたとき、あなたは何を思うのか。

家を守ってくれた妻への感謝から、旅行を計画するだろうか。
まだ出会ったことのない、孫の顔を思い浮かべるだろうか。
老けた幼なじみと最後のイタズラ(遊び)を考えるだろうか。

きっとそれは、あなたが歩んできた道とこれから歩むべき道について、考える瞬間なんだろうと思う。

一人の男が定年を迎えた。

大手商社に務め、晩年は子会社に出向し、役員として会社員人生のピリオードを打った。

出向と聞けば、都落ちのイメージは拭えないが、トップになれるのは一人だけ。まして大手商社の社長ともなれば、同期から社長になる者すら現れない世界だ。
それを思えば、子会社の役員として最後を迎えられたことは、順風満帆な会社員生活を送ったといって良いだろう。

そんな男の自慢の一つは、同じ部署で働き、社宅も同じだった同期が社長に上り詰めたことだった。

そんな社長の元へ連絡が入る。
「男が倒れて病院に運ばれました。」

話を聞けば、定年を迎え、子会社の社員を中心に送別会をしてもらった帰り道、地下鉄で倒れたというのだ。

社長は予定を変更して男の病院へ向う。

他の社員が倒れても連絡は入らないが、同期入社ということもあって、秘書が気を利かせたのだろう。
同期で同じ部署。同じ社宅とくれば、普通の人が知らなくて良いことをお互いに知っている。そんな間柄なのだ。
本来なら時間を割いてでも送別会に顔をだすのだが、親会社の社長と子会社の役員では忙しさも違うだろうと、男の方が呼ぶのを遠慮したらしい。

病室には男の妻が付き添っていた。
社長は奥さんの存在にも気づかず、男に問いかけるが返事がない。
この時、目を覚まさぬ男の面影をみながら、何を思ったのか。

ふと気づいたとき、奥さんの存在を知るが、奥さんは覚悟を決めているようだった。

予定の時間が差し迫ってきたので退室しようとすると

奥さんから
「社長が同期の誇りだっていつも言っていましたよ。」
社長は後ろ髪を惹かれる思いで次の予定に向ったのだ。

その頃倒れた男は不思議な夢をみていた。
本人は、夢なのか現実なのか区別がついていない。

妻の友人だろうか、一度も見たことのない婦人が御見舞に来てくれている。
傍らには疲れ切った妻が寝ている。

ベッドで寝続けていた男はお腹が空いていた。

妻を起こしてはかわいそうと、なぞの婦人から食事に誘われる。
気にもせず着替えて食事へと出かける男。

そっと病室を抜け出し、妻の友人と食事に出かけたのだ。

そして病室に戻ると娘婿がやって来た。

本来娘が来るはずなのだが、身籠っているため娘婿がやって来たのだ。

娘婿は何もできないが、疲れきった男の奥さんに、一旦帰るように促した。

娘婿は、目を覚まさぬ男の面影をみながら、彼との出会いを思い返している。

少し経って、娘婿の会社の親方が現れた。
この親方と倒れた男は、養護施設の幼なじみなのだ。

それを知ってか、娘婿は気を使って、そっと席を外す。

そして男はまた不思議な夢を見始めた。
今度も謎の女性が現れたが、時代は彼が生きてきた過去のようだ。

病院を訪れる者が、目を覚まさぬ男と出会ったときの面影を思い出し。
男は謎の女性と夢の中で、自分の面影を思い出す。

まさにパラレルワールドに展開する物語。
点の物語が最後に線として繋がる瞬間、一人の男の人生が現れる。

涙なしには読めない浅田文学。オススメの1冊です。

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