著者のお二人が経営されているmedventure partners株式会社は、投資先を医療機器開発会社に特化したベンチャーキャピタルだ。じつはこの本を手にとったのは、先日からブログで書いているとおり、医療機器を開発している会社のお手伝いをしているのが理由だ。
本の内容は、国内は十分に医療機器開発のベンチャーが育つ可能性があるのに、なぜ育っていないのか。そのためにはどうしたらよいのかを説明している。
じつは業種を問わずベンチャーと呼ばれる企業は、なぜか日本で育たていない。この本を読み解いていくとベンチャー企業が育つヒントが見えてくるかも知れません。
ではさっそく紹介したいと思います。
ベンチャー企業ってどんな会社
みなさんベンチャー企業ってどんな会社だと思います。じつは日本では明確な定義がないと著者は言っています。本人たちが、◯◯ベンチャーです。と名乗ると日本ではベンチャー企業なのだとか。
しかしアメリカでは明確な定義があるという
- ベンチャーキャピタル、エンジェル(投資家)の資本が入っていること
- ゴールは、IPOか大手に吸収されるかのどちらかであること
つまり、人に投資をしてもらって、リターンを返すことが目的となっているん会社をアメリカではベンチャー企業またはスタートアップ企業と定義されているのです。
人に投資をしてもらっていない会社は、アメリカでも単純に中小企業というくくりだそうです。
ベンチャー特徴
新しいアイデアや技術によって、新しい商品やサービスを提供すること。つまり、イノベーションを起こす会社でなければ存在意義はないという。
二番煎じの戦略はベンチャーがやるべき戦略ではないとはっきり言っている。
冷静に考えれば当たり前ですよね。
一定のマーケットが出来ると、次に取るべき戦略はコストダウンによる価格競争になります。ここに小規模のベンチャーが戦いを挑んでも勝てないのはあたりまえだし、それをやる理由はない。
ゴールを上場または大手に吸収ということを考えれば、開発する商品やサービスのマーケットサイズはとても重要になります。それはリスクが高いのに成功しても、マーケットが小さいとリターンが少なく、巨額の富を得られないからだ。
医療機器のベンチャーが育つエコシステムとは
エコシステムとは生態系のことを意味する。著書ではもっと細かく説明しているが、ざっくり言うと、医療機器の開発でいえば、お金を出資する人がいて、開発をする人がいて、それを買う人がいて、またお金になる。そういう循環がないと新しいベンチャーを育てることができないのだという。
つまり、お金を循環するシステムがないとベンチャーは育たないのだ。
日本ではこのエコシステムが構築されていないというのだ。
システム以外にもアメリカと比べとて問題点があるとも言っている。
- 医療機器に投資するベンチャーキャピタルがいない
- 有能な人材の流動性が低い
- 医療機器を開発サポートしてくれる医師の存在
医療機器開発ベンチャー企業の資金調達
医療機器開発ベンチャーに限ったことではないが、創業間もないころは自己資金も低いので、一気に資金を調達してしまうと、自分たちの株の保有率が下がってしまう。
株式の保有率が下がってしまうと、自分たちの意思決定で物事が進まなくなるので、避けなければいけない。
できれば開発ステージを上げ、株の価値を上げてから、次の資金を調達することが望ましい。また大手企業から資金も調達するときも、必要最低限の割合を受けた方がよいと著者は言っている。
出資をしてくれた会社が必ずしも買収してくれるとは限らない。買ってもらえない場合は、他の大手交渉と交渉するが、出資の割合が大きいと敬遠され、最悪どこにも売却できない恐れがあるからだ。
大手企業との付き合い方
正攻法で勝負しても勝てない。出来る限り大手と敵対するのではなく出資などを含めて友好関係を気づきたい。
だからこそベンチャーは、大手が手を付けない分野、商品、サービスで勝負することが大事なのだ。大手企業が手を付けない理由の一つは、開発リスクの高い商品だ。
医療機器は最悪死というリスクがあるため、他の分野よりもベンチャー企業向きだと著者は言っている。
大手はブランドイメージを大事にする側面もある。そうそう、死という危ない橋は渡らない。しかし、最終的の安全だという商品やサービスとなれば、それを買取るという選択肢は大いにあるのだ。
ベンチャー側に取っても上場するだけの選択肢だけでないゴールがもう一つできるわけだ。
成功してお金持ちになることはいいこと
著書の大下さんは著書で問いかけている。ご本人の答えはもちろんYESだ。
理由は
- 自分に富を得られる
- 余剰の資金で、マーケットが小さくリターンが小さい商品の開発に着手できる
- エンジェルとなってエコシステムを構築する一部になれる
成功 =富を得る = 世の中の役に立つ。ことができるのだから、富を得ることはいいことだいっている。
アメリカではベンチャー企業を繰り返し創業する人がいるが、この人達は世の中をよくすることしか、考えていないそうだ。
キャピタルと銀行の違いについて
両方共お金を出すという意味では同じだが、銀行は融資。キャピタルは投資だ。そもそもお金の出す意味が違う。
銀行は預金者のお金を運用しているので、貸し出しても原則元本を保証させたいのだ。
リスクが高く、資金がないベンチャー企業にとっては、融資で会社を一時的に回すのは無理がある。
そこで支えるべきは、ベンチャーキャピタルなのだ。
投資をすることによってリターンを得ることが彼等の目的だ。
そこで重要になってくるのは目利きだ。
いくら投資とはいえ、むやみに投資はできない。事業計画を評価できるひとは沢山いるが、そのベンチャーが開発して治す疾患のことが分からなければ正当な評価はできないと著者は言う。。これが日本の医療機器開発に投資をするベンチャーキャピタルの問題点でもあるといえる。そういう意味では彼等の会社はその問題を解決してくれるキャピタルなのだ。
ニーズと市場規模
著者は、過去の医療機器開発をみても、ニーズがないと絶対に上手くいかないといっている。つまり患者をみている医師からの要求がないものは絶対に売れないのだ。成功しない事例として、技術や素材からニーズに結びつけていくアプローチだという。このアプローチだと、どこかで課題解決の本質に迫れなくなってしまうのだ。
次に市場規模を見誤ると大変なことになる。冒頭にも書いたが、市場が小さいとリターンが小さいのだ。いい商品やサービスだったとしても、ベンチャーキャピタルから資金を調達できないということは、別の見方をするとその商品やサービスはベンチャー企業が開発する価値はないということだと割り切る必要もある。つまりリスクをとるなら、ゴールは大きく狙う方がよいということだ。
治療不可能な少女を救ったベンチャー企業の決断
「こういつ患者を助けるために、俺達はこの商品を開発してきたんじゃないのか?」
あるアメリカのベンチャー企業の社長さんが決断したことにより、一人の少女の命が助かった。
FDA(アメリカ食品医薬品局)、日本でいえば厚生労働省かな?
全ての準備が整いあとはFDAの承認をうけるための臨床試験の準備をしているときに、開発していた医療機器の使用オファーが届いた。経営判断としてはここで何かあると、FDAの心証が悪くなり、臨床試験のに望めない可能性があった。仮にこの手術が成功しても患者から感謝されるだけでそれ以外にはない。経営判断としては見送るということもできたが、ここのCEOの判断は、明確であった。なぜなら人を救うために医療機器を開発しているからだ。
成功して商品としても世界に発売されていることは最後に付け加えておきたい。
まとめ
- ベンチャーと中小企業は役割が違う
- リスクをとって巨額の富を得たなら、またその富を再分配することが重要
- 最重要項目は患者を助けることを忘れてはいけない
どんなビジネスにも役割がある。その役割を勘違いしてはいけないのだ。日本ではイノベーションが起きないのは、単純に考えれば本当の意味でのベンチャー企業がないからではないだろうか。そういう意味でも、医療機器開発で言われているエコシステムが出来上がると、日本の医療機器開発だけではなく、他の分野でもイノベーションを起こす会社が沢山でてくるはずだ。
医療機器開発だけなくても、ベンチャーの仕組みがわかる一冊です。新書サイズですぐに読み終えることができますので
どうぞお手にとって損はない1冊です。