著者のフィリップ・コトラーさんを今更説明する必要はないだろう。ビジネスパーソンなら知らない人はいない、近代マーケティングの父と呼ばれる人だ。
この著書は日本の読者のために制作され、日本だけで発売された貴重な本である。通常この手のビジネス本は、英語で発表されたあとに翻訳され日本で発売となる。極めて異例の一冊だ。今回は最新理論のマーケティング4.0の復習とそれをどう今後の日本の未来に役立てたらよいのかという提言書でもある。コトラーさんの考えを知ることのできる貴重な本だ。多くのビジネスパーソンに知ってもらいたいので、早速紹介してみましょう。
マーケティングとブランディングの違い
いまだにマーケティングを、狭義の「宣伝」と同じ意味だと思っている人がいるとコトラーさんは言っている。テレビCMや雑誌、新聞の広告がマーケティングだと思っている人がたくさんいると言うのだ。
また、マーケティングとブランディングの違いについても分からない人がいるとも言っている。ブランディングとは、マーケティングの一環であって、その全てではないと。
なかには、マーケティングはもう必要ない。ブランディングこそ重要だという人がいるが、それは間違っていると、いい切っている。
コトラーさんは著書の中でカナダのジャーナリストのナオミ・クラインの言葉を紹介している。
「一つのカテゴリーの商品のほとんどは似たり寄ったりなのに、ブランディングによって、ある会社の商品は、他の会社の商品よりも優れている、という間違った見方をもたらす」とナオミさんは言っている。
つまり、イメージだけ良くしても、実際に販売するサービスや商品がその価値に相応しくないと、すぐに消費者から不評を買ってしまうのだ。過剰なブランディングよって、ものごとの本質を隠すのは意味をなさないということだ。
マーケティングとは、本来もっと幅広くとらえる活動のことで、ブランディングだけをしていればいいという話ではない。
マーケティング1.0から3.0の時代
このあとマーケティング4.0については説明するとして、復習をかねて、マーケティング1.0から3.0までについて簡単に説明してみよう。
●マーケティング1.0は「製品中心」
購買者が欲しいものを作って買ってもらう。つまり欲しいというものを提供する。至ってシンプルだ。企業は購買者に、手に取ってもらえるよう、コストを抑えて商品を開発することだけに注力していた。ある意味マーケティングは生産を維持するための機能の一部であったともいえるわけだ。そこに消費者の好み(形や色)などという要素は全く無く、機能を有していればよいとされていた。欲しいものを手頃な価格で提供する。これこそがマーケティング1.0だったわけだ。
●マーケティング2.0は「顧客志向」
競合が出てくれば、差別化をはかる必要がある。そして次は顧客の志向を追加する方式が取り入れられた。一つ例にあげれば、単色1色しかなかった製品は色を増やし、または形を変えることによって、消費者に選択肢を与える。そして対話を通じて機能を追加する。つまり顧客志向型の製品開発がマーケティング2.0だったわけだ。
●マーケティング3.0は「価値主導」
マーケティング3.0は価値主導型に変ってきた。これは安いから、必要だから、という理由ではなく、顧客がそれらを選択することによって、世の中を良くする。自分がより良くなる。という一部消費者の精神に訴えかけるような商品開発がマーケティング3.0だったわけだ。
マーケティング4.0とは
さぁここからはマーケティング4.0について簡単に説明してみよう。
マーケティング4.0。
それはデジタル革命のマーケティングアプローチだとコトラーさんは言っている。
デジタル、主にインターネットなどを通じてオンラインとオフラインの組み合わせで商品開発をすることだと言っている。
おもな組み合わせは
- 企業と消費者のあいだのオンラインとオフラインの組み合わせ
- ブランド確立のためのスタイルと実体の組み合わせ
- IoTによる機械のネットワークと人のあいだのネットワークの組み合わせ
インターネットの出現によって、商品やサービスの情報を企業が圧倒的に持っているということが完全に崩壊した。消費者は企業の情報だけではなくSNSなどを通じて、実際に体験した人の情報を入手できるようになり、企業よりも多くの情報を入手できるようになったのだ。そしてそれらをもとに、購入の選択ができるようになったのだ。
ただし、企業側にもメリットはある。従来よりもミクロに顧客情報が入手しやすくなったと言える。これにより精度が高いターゲットを絞ることができ、商品開発につなげることが出来るようになったのだ。
お互いにとって情報が限定されずにオープンになってきている。それがマーケティング4.0の世界なのだ。
製品購入時に顧客がたどるプロセス
コトラーさんは製品購入時に顧客がたどるプロセスには5つの段階があると言っている。
「5A」とは
- Awareness(気づき)
- Appeal(魅了)
- Ask (尋ね)
- Act (行動=購買)
- Advocacy(推奨表明)
伝統的なマーケティングではとくに最初の二つが重視されていたわけだ。
・プロモーションで、Awareness(気づき)を与え
・4P(製品(product)、価格(price)、流通(place)、プロモーション(promotion))を通じ製品アピールする
従来はここで終わりなのだが
デジタル革命では
- Ask (尋ね) = 検索エンジンやソーシャルで検索が可能になり
- Act (行動=購買) = ECサイトによってすぐに購入できる
- Advocacy(推奨表明) = ソーシャルなしには今や実現しない
つまり、企業と顧客の接点は
マス媒体からネット媒体にまで広がり、詳細化しリアルチャンネルもまで拡大しているのだ。
マズロー欲求段階説とマーケティング
- 生理的欲求
- 安全の欲求
- 社会的欲求
- 承認(尊重)の欲求
- 自己表現の欲求
マズローの欲求段階説をご存知のかたも多いだろう。
生理的欲求、安全の欲求は、とくに貧しい人が欲求する。しだいに裕福になると、社会的欲求、承認欲求、自己表現の欲求と、段々欲求レベルがあがっていく。
先程のマーケティング1.0から4.0も実はここにつながってくるのだ。
昔はただその機能を有していればよかった。
次はもっと安全なものが欲しい(品質向上)。
次は自分のオリジナリティが欲しい。(他の人とは同じのはイヤ)
次は自分だけではなく社会も豊かでなくてはいけない。
マーケティングとは人の欲求を満たしていく段階に似ているのある。
日本の今後について
日本は地方創生をうたっているが、実際に税金や医療費、教育費を下げたところで人は地方には戻らないとコトラー氏は言っている。
マーケティングでいうならば、既に日本は4.0の領域に入っているのに、考え方が2.0で停まっているというのだ。これは非営利団体だけに限ったことではない。
つまり、もう既に顧客志向だけでは太刀打ちできないぐらい、世の中は変化してきているのだ。
価値提案を行う能力を向上させなければ、顧客の感心をひきつけておくことはできない。
今後はその腕を磨くべきだといっている。
まとめ
顧客を創造するためにはマーケティングは必要不可欠だ。
同じ物なら安くすれば売れるという発想を持ってしまうが、日本ではもうその段階ではないことを理解しないといけない。これはどんな製品やサービスでも同じことだ。
より価値の高いものをお客様に納得して買ってもらうか、日本では今後それが必要になってくる。
そのためにもデジタル、主にインターネットなどを通じてオンラインとオフラインの組み合わせで商品開発をすることだと言っている。
トッピクスしかお伝えできませんでしたが、著書ではより深く書かれています。
是非ビジネスパーソンには手にとっていただきたい一冊です。